「うちの子の問題行動、なおりますか?」
お悩み相談の場でよく耳にするこの言葉です。
「チャイムで吠えるのですが、なおりますか?」
「散歩で引っ張りまくるのですが、なおりますか?」
「ちゃんとトイレシートでオシッコしてくれないんですけど、なおりますか?」
など。
他にも大変深刻な問題から、申し訳ないですが微笑ましく思ってしまうかわいらしいお悩みまで、挙げたらキリがないほど愛犬とのお悩みの種類は様々です。
“なおるか?”と、聞きたくなる飼い主さんの不安な気持ち、とても理解できます。分かるのですが実はこの“なおるか?”という言葉に少々違和感を覚えてしまうのです。なぜ違和感があるかというと、まるでわんこにだけ問題があるというイメージだからです。
イヌの「問題行動」ってなんのことでしょう?
一括りにされていますが「問題行動」と言われるものの中には、“犬本来の行動レパートリーから逸脱した「異常行動」”と、“異常行動も含めた人間(飼い主や周囲の者)が困ると感じる「お悩み行動」”があります。
- 異常行動の例
- 例えば「舐める」行動を挙げてみます。
通常「舐める」行動は、食事関連・愛情表現・落ち着き関連・毛づくろい・傷や痛みがある場合などで見られる行動です。
それが通常の毛づくろい程度で前足などを舐めるのではなく、皮膚を舐め壊してしまう程となると逸脱した異常行動の域となってしまいます。 - お悩み行動の例
- 「吠える」を挙げてみます。
もしも、人里離れたところにひとりで住んでいたら。怪しい気配や聞きなれない音に対して吠えて知らせてくれた方が心強いしありがたく、その状況では「吠える犬=仕事してる犬」、「吠えない犬=仕事できない犬」となり、「仕事のできない犬」は問題犬と言われてしまいます。
ところ変わって住宅地や集合住宅という環境に住んでいたら「吠える犬=ご近所迷惑な犬」、「吠えない犬=いい子」と変わり、「ご近所迷惑な犬」が問題犬と言われてしまいます。
飼い主側の主観によって問題行動の定義が変わる、ということです。
「吠える」理由は例に挙げたような怪しい気配や聞きなれない音への「警戒心」だけではありませんのでひとくくりにはできませんが、大前提として「吠える」行動は生き物としては異常な行動ではないことを再認識したいところです。しかしながら「犬なんだから仕方ない」と何でもOKにして良いというわけではありません。
「吠える」行動とは、何か悪いストレスを受けた時に“上手に処理しきれていない状態”とも言えるからです。
慣れ親しませる力を育む
トレーニングやしつけの一般イメージとして「悪い行動を直すこと」がまだまだ根強いと感じます。根本的なところとして、例えばチャイムやバイクの音に対してポジティブな気持ちになるように教えることや、飼い主さん以外の人間に対しても慣れ親しむ力を仔犬の頃から育むことなどがしつけ教養に必要なことと捉えています。
心の器を広げるような接し方を幼いうちからしていると、慣れない状況でも順応しやすく、心のバランスを保ちやすくなるからです。
“なおるか?”
確かにトレーニングではお悩みの行動改善もしていくわけですが、電化製品の修理や住宅の修繕のような「直す」とはわけが違います。
お悩みがある場合「わんこが理解できるように伝えていただろうか」はたまた「教えてもいないのにこの犬は悪い子!」と自分を棚にあげていないだろうか。
わんこを人間社会に連れ込んでいるわけですからフェアでありたいものです。
と、ここまで長く“なおるか?”という飼い主さんからの質問への違和感を語ってきましたが、カウンセリング依頼でお悩み相談をしてくださる方々は大抵の場合何が必要か理解を示してくださいます。なので「いくらやってもこの犬は直らない!」と犬のせいにする飼い主さんは少ないです(残念ながらゼロではありません)
“犬って始めから人に慣れてて、愛想よくて、ついて歩いたり、呼ばれたら喜んで来たりする。それが犬”と思っていらっしゃる方もいます。確かに犬のイメージとしては間違っていませんがそういうわんこばかりではなく、個性があり飼い主さんとの信頼関係を積み上げていった先にオンリーワンのカスタマイズになるのだと感じます。